月給の話をした。C君は日露戦争と欧洲大戦を引合に出して、緊張と寛舒《レラクセーション》の利害を論じた。D君は現在教育制度の欠陥を論じて、日本人は小学から大学までただ満員電車にぶら下がる術を教わるばかりだと云った。E君は、国民の哲学的宗教的背景が欠けている事を痛論した。
 X君とZ君だけは自分の大浴場説に賛成した。しかし浴場に附属した礼拝堂と図書館と画廊と音楽堂と運動場の建築が必要であると云って、それで三人でこの仮想的浴場のプランを画《えが》いてみたりした。しかしその費用の出処《でどころ》については誰にも何の目あてもないので、おしまいにはとうとう三人で笑い出してしまった。[#地から1字上げ](大正九年五月『新小説』)



底本:「寺田寅彦全集 第七巻」岩波書店
   1997(平成9)年6月5日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
   1985(昭和60)年
初出:「新小説」
   1920(大正9)年5月1日
※初出時の署名は「金平糖」
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2004年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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