百三十五に対し学校の全壊一の割合である。実に驚くべき比例である。これにはいろいろの理由があるであろうが、要するに時の試練を経ない造営物が今度の試練でみごとに落第したと見ることはできるであろう。
小学校建築には政党政治の宿弊に根を引いた不正な施工がつきまとっているというゴシップもあって、小学生を殺したものは○○議員だと皮肉をいうものさえある。あるいは吹き抜き廊下のせいだというはなはだ手取り早で少し疑わしい学説もある。あるいはまた大概の学校は周囲が広い明き地に囲まれているために風当たりが強く、その上に二階建てであるためにいっそういけないという解釈もある。いずれもほんとうかもしれない。しかしいずれにしても、今度のような烈風の可能性を知らなかったあるいは忘れていたことがすべての災厄《さいやく》の根本原因である事には疑いない。そうしてまた、工事に関係する技術者がわが国特有の気象に関する深い知識を欠き、通り一ぺんの西洋|直伝《じきでん》の風圧計算のみをたよりにしたためもあるのではないかと想像される。これについてははなはだ僣越《せんえつ》ながらこの際一般工学者の謙虚な反省を促したいと思う次第である
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