天災と国防
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)揺曳《ようえい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)宗教的|畏怖《いふ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和九年十一月、経済往来)
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「非常時」というなんとなく不気味なしかしはっきりした意味のわかりにくい言葉がはやりだしたのはいつごろからであったか思い出せないが、ただ近来何かしら日本全国土の安寧を脅かす黒雲のようなものが遠い水平線の向こう側からこっそりのぞいているらしいという、言わば取り止めのない悪夢のような不安の陰影が国民全体の意識の底層に揺曳《ようえい》していることは事実である。そうして、その不安の渦巻《うずまき》の回転する中心点はと言えばやはり近き将来に期待される国際的折衝の難関であることはもちろんである。
 そういう不安をさらにあおり立てでもするように、ことしになってからいろいろの天変地異が踵《くびす》を次いでわが国土を襲い、そうしておびただしい人命と財産を奪ったように見える。あの恐ろしい函館《はこだて》の大火や近
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