見せるのもいいかと思う。
ジョコンダの絵と、ルウベンスの模写が出ている。模写の出来る絵と出来ない絵とがあるとすれば、この二つはその代表者だと思う。ジョコンダの模写を見ると本物の価値が始めてよく分るし、ルウベンスの模写を見ると、ルウベンスの大幅が到る処のギャレリイにのさばっている理由が明白になると思う。
マイヨオルのものの見えないのが物足りない。何か訳があって出ないのではないかを心配する。フランス人と日本人との心持のピッタリ接触し得る接触点を示すものがマイヨオルのプラスティックであるかと思う。ロダンなどは、ほんとうは日本人に背中を向けておりはしないか。
マイヨオルの作品を見ると、人に見せよう展覧会に出そうという発表意識が少しも感ぜられない。作者が自分ですっかり目尻を下げているようなところがある。
これに反して、近頃の展覧会の多くの絵などは、作者が幕の陰にかくれていて、見物人の眼の色ばかり読んでいそうな気がする。そんな心持が少しでもあって、いい芸術が生れようとは思われない。見る人にとっても釣り込まれるような感興が起ろうはずはない。
思うままを備忘までに書いてみた、名前を挙げた画家達に礼を失するような事がありはしないかと思うが、素人の妄言として寛容を祈る。[#地から1字上げ](大正十四年十月『明星』)
底本:「寺田寅彦全集 第八巻」岩波書店
1997(平成9)年7月7日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
1985(昭和60)年
初出:「明星」
1925(大正14)年10月1日
※初出時の署名は「吉村冬彦」です。
入力:Nana ohbe
校正:松永正敏
2006年7月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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