で、この石燈籠のわきにあった数本の大きな梧桐《あおぎり》を細引きで縛り合わせた。それは木が揺れてこの石燈籠を倒すのを恐れたからである。この梧桐《あおぎり》は画面の外にあるか、それとももうとうの昔になくなっているかもしれない。
画面の左上のほうに枝の曲がりくねった闊葉樹《かつようじゅ》がある。この枝ぶりを見ていると古い記憶がはっきりとよみがえって来て、それが槲《かしわ》の木だとわかる。ちょうど今ごろ五月の節句のかしわ餅《もち》をつくるのにこの葉を採って来てそうしてきれいに洗い上げたのを笊《ざる》にいっぱい入れ、それを一枚一枚取っては餅を包んだことをかなりリアルに思い出すことができる。餡入《あんい》りの餅のほかにいろいろの形をした素焼きの型に詰め込んだ米の粉のペーストをやはり槲の葉にのせて、それをふかしたのの上にくちなしを溶かした黄絵の具で染めたものである。
正面の築山《つきやま》の頂上には自分の幼少のころは丹波栗《たんばぐり》の大木があったが、自分の生長するにつれて反比例にこの木は老衰し枯死して行った。この絵で見ると築山の植え込みではつつじだけ昔のがそのまま残っているらしい。しかし絵
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