い薄雲が月にかかったときに見えるのと似たようなものです。この色についてはお話しすることがどっさりありますが、それはまたいつか別のときにしましょう。
 すべて全く透明なガス体の蒸気が滴になる際には、必ず何かその滴の心《しん》になるものがあって、そのまわりに蒸気が凝ってくっつくので、もしそういう心《しん》がなかったら、霧は容易にできないということが学者の研究でわかって来ました。その心《しん》になるものは通例、顕微鏡でも見えないほどの、非常に細かい塵《ちり》のようなものです、空気中にはそれが自然にたくさん浮遊しているのです。空中に浮かんでいた雲が消えてしまった跡には、今言った塵のようなものばかりが残っていて、飛行機などで横からすかして見ると、ちょうど煙が広がっているように見えるそうです。
 茶わんから上がる湯げをよく見ると、湯が熱いかぬるいかが、おおよそわかります。締め切った室《へや》で、人の動き回らないときだとことによくわかります。熱い湯ですと湯げの温度が高くて、周囲の空気に比べてよけいに軽いために、どんどん盛んに立ちのぼります。反対に湯がぬるいと勢いが弱いわけです。湯の温度を計る寒暖計が
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