《さんば》などとは著しく違った特色をもった作者であることが感ぜられた。そうしてこれを手始めに『諸国咄《しょこくばなし》』『桜陰比事《おういんひじ》』『胸算用《むねさんよう》』『織留《おりとめ》』とだんだんに読んで行くうちに、その独自な特色と思われるものがいよいよ明らかになるような気がするのであった。それから引続いて『五人女』『一代女』『一代男』次に『武道伝来記』『武家義理物語』『置土産』という順序で、ごくざっと一と通りは読んでしまった。読んで行くうちに自分の一番強く感じたことは、西鶴が物事を見る眼にはどこか科学者の自然を見る眼と共通な点があるらしいということであった。そんなことを考えていた時にちょうど改造社の『日本文学講座』に何か書けという依頼を受けたので、もし上掲の表題でも宜しければ何か書いてみようということになった。云わば背水陣的な気持で引受けた次第である。そんな訳であるから、この一篇は畢竟《ひっきょう》思い付くままの随筆であって、もとより論文でもなく、考証ものでもなく、むしろ一種の読後感のようなものに過ぎない。この点あらかじめ読者の諒解《りょうかい》を得ておかなければならないので
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