ょうはっけい》はどうも魂が抜けている。塗り盆に白い砂でこしらえる盆景の感じそのままである。全部がこしらえものである。金粉を振ったのは大きな失敗でこれも展覧会意識の生み出した悪い企図である。
 速水御舟《はやみぎょしゅう》の「家」の絵は見つけどころに共鳴する。しかしこれはむしろやはり油絵の題材でないか。とにかくこの人の絵はまじめであるがことしのは失敗だと思う。
 富田渓仙《とみたけいせん》の巻物にはいいところがあるが少し奇を弄《ろう》したところと色彩の子供らしさとが目についた。
 あれだけおおぜいの専門的な研究家が集まってよくもあれほどまでに無意味な反古紙《ほごがみ》のようなものをこしらえ上げうるものだという気がする。
 これに反して二科会では、まだあまり名の知られてないようなたぶん若い人たちでも、中には西洋人のまねをしている人はあるとしても――ともかくも何かしら魂のはいった絵をかく人が多い。一つは材料の差異によるにしても。
 最後に一個の希望として、来年あたりから二科会で日本画も募集する事にしたらおもしろいだろうと思う。ただし従来いわゆる日本画の教養を受けた人は出品の資格がないという事にして――これはコントロールがむつかしいかもしれないが――そうして新しい日本画を募集してみたらどうであろう。その結果はおそらく沈滞した日本画界に画時代的の影響を及ぼすようなものになりはしないか。そうなったら自分も一つやってみようかなどとこのようなたわいもない夢のような事を思うのもやはり美術シーズンの空気に酔わされた影響かもしれない。
 勝手なことを書いて礼を失したところが多いと思う。しかし私の悪口は絵に対しての悪口である。名前をあげた限りの「人」に対しては好意と敬愛のほか何物も持っていない事をこの機会に明らかにしておきたい。悪言多罪。[#地から2字上げ](昭和二年十一月、霊山美術)



底本:「寺田寅彦全集 第四巻」岩波書店
   1961(昭和36)年1月7日第1刷発行
初出:「霊山美術」
   1927(昭和2)年11月
入力:Cyobirin
校正:浅原庸子
2005年9月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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