灰のような特異な海綿状の灰の被覆物は見られなかった。あるいは時によって降灰の構造がちがうのかもしれないと思われた。
 翌十八日午後峰の茶屋からグリーンホテルへおりる専用道路を歩いていたらきわめてかすかな灰が降って来た。降るのは見えないが時々目の中にはいって刺激するので気がついた。子供の服の白い襟《えり》にかすかな灰色の斑点《はんてん》を示すくらいのもので心核の石粒などは見えなかった。
 ひと口に降灰とは言っても降る時と場所とでこんなにいろいろの形態の変化を示すのである。軽井沢《かるいざわ》一帯を一メートル以上の厚さにおおっているあの豌豆大《えんどうだい》の軽石の粒も普通の記録ではやはり降灰の一種と呼ばれるであろう。
 毎回の爆発でも単にその全エネルギーに差等があるばかりでなく、その爆発の型にもかなりいろいろな差別があるらしい。しかしそれが新聞に限らず世人の言葉ではみんなただの「爆発」になってしまう。言葉というものは全く調法なものであるがまた一方から考えると実にたよりないものである。「人殺し」「心中」などでも同様である。
 しかし、火山の爆発だけは、今にもう少し火山に関する研究が進んだら
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