は月並みじゃありませんかと悪口を言ったものであった。今考えてみるとやはりなかなか巧妙な句であると思う。
四
俳句がいわゆる「不易」なものの一断面「流行」の一つの相を表現したものである以上、人の句を鑑賞する場合における評価が作者と鑑賞者との郷土や年齢やの函数《かんすう》で与えられるのは当然であろう。これは何も俳句に限ったことでもないと思われる。「おとろえや歯に食いあてし海苔《のり》の砂」などという句でも若いころにはさっぱり興味がなくてむしろいやみを感じたくらいであったのが、自分でだんだん年を取ってみるとやはりそのむしろ科学的な真実性に引きつけられ深く心を動かされるようである。明治の昔ホトトギスの若い元気な連中が鳴雪翁《めいせつおう》をつかまえてよくいじめた時代があったのを思い出すのである。
[#地から3字上げ](昭和九年一月、東炎)
底本:「寺田寅彦随筆集 第四巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
1948(昭和23)年5月15日第1刷発行
1963(昭和38)年5月16日第20刷改版発行
1997(平成9)年6月13日第65刷発行
入力:(株)モモ
校正:かとうかおり
2003年5月29日作成
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