氏の頭脳の中にかなり明確に保存されていた根岸の地理の一つの映像としてこれも面白いものの一つであろうと思う。この辺も区劃整理で昔の形が消えてしまうかどうか知りたいものである。
 今久し振りにこの図を取出して見ていると三十年前の子規庵の光景がありありと思い出される。御院殿坂《ごいんでんざか》に鳴く蜩《ひぐらし》の声や邸後を通過する列車の騒音を聞くような心持がする。
[#地から1字上げ](昭和三年九月『日本及日本人』)



底本:「寺田寅彦全集 第一巻」岩波書店
   1996(平成8)年12月5日発行
入力:Nana ohbe
校正:松永正敏
2004年3月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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