棹《ふとざお》の三味線の音色とぴったり適合していることである、ピアノ伴奏では困るのである。
小唄勝太郎の小唄に洋楽の管絃伴奏のついた放送を聞いた。勝太郎の声のチャームがすっかり打消されてしまっている。この人の声はやはり唄三味線《うたじゃみせん》の絃の音色に乗るように練習して来たものである。
四
ある食堂の片隅の食卓に女学生が二人陣取ってメニューを点検していた。「何たべる」「何にしよう」……「御飯だの、おかずだの別々にたべるの面倒くさいわ、チキンライスにしましょう」。
ある家庭で歳末に令嬢二人母君から輪飾りに裏白《うらじろ》とゆずり葉と御幣《ごへい》を結び付ける仕事を命ぜられて珍しく神妙にめったにはしない「うちの用」をしていた。裏白やゆずり葉を輪の表に縛り付けるか裏につけるかを議論していた。そのうちに妹の方が「こんなもの、はじめから結び付けて売っていればいいと思うわ。その方が合理的だわ……」。このチキンライスの話と輪飾りの話には現代思潮の反映がある。
そうかと思うとまたある日本食堂で最近代的な青年二人と少女二人の一行が鯛茶《たいちゃ》を注文していたが、それが
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