験のごときは極めて肝要なるべし。一方においては統計的にいわゆる第二次原因の分析を試むるも有益なり。しかれども統計に信頼するためには統計の基礎を固むる必要あるべし。普通公算論の適用さるる簡単なる場合においても、場合の数が小なる時は自然の表現は理論の指示する所と大なる懸隔を示す事あり。これも忘るべからざる事なり。なお一般弾性体の破壊に関してその弱点の分布や相互の影響あるいは破壊の段階的進歩に関する実験的研究を行い、破壊という現象に関するなんらかの新しき方則を発見する事も必ずしも不可能ならざるべし。すなわち従来普通に考うるごとく、弾性体を等質なるものと考えず複雑なる組織体と考えて、その内部における弱点の分布の状況等に関し全く新しき考えよりして実験的研究を積むも無用にあらざるべきか。
[#地から1字上げ](大正五年三月『現代之科学』)



底本:「寺田寅彦全集 第五巻」岩波書店
   1997(平成9)年4月4日発行
入力:Nana ohbe
校正:浅原庸子
2005年8月19日作成
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