適当に選ばれたる有限の独立変数にてある程度までいわゆる原因を代表し、いわゆる方則によりて結果の一部を予報し得るに依る。これにはいわゆる原因と称するものの概念の抽象選択の仕方が問題となる。これは結局経験によって定まるものにして、原因の分析という事自身が既に経験的方則の存在を予想する事は明らかなり。物理的科学発展の歴史に溯《さかのぼ》れば、到る処かくのごとき方則の予想によって原因の分析、すなわち最も便宜なる独立変数の析出に勉《つと》めたる痕跡を見出し得べし。しかしこの試みが成効して今日の物理的自然科学となれり。力学における力、質量等のごとき、熱力学における温度エントロピーのごときこれなり。これらの概念と定義とが方則の云い表わしと切り離し難きはこのためなり。物理的自然現象を限定すべき条件等がすべてこれらの有限なる独立変数にて代表され得るや否やは別問題として、現在の物理学的科学の程度において、従来の方法によりて予報をなし得る範囲は如何なるべきかが当面の問題なり。
 先ず従来の既知方則の普遍なる事を仮定せば、すべての主要条件が与えらるれば結果は定まると考えらる。しかしながら実際の自然現象を予報せんとする場合に、この現象を定むべき主要条件を遺漏なく分析する事は必ずしも容易ならず。故に各種原因の重要の度を比較して、影響の些少なるものを度外視し、いわゆる「近似」を求むるを常とす。しかしてこれら原因の取捨の程度に応じて種々の程度の近似を得るものと考う。この方法は物理的科学者が日常使用する所にして、学者にとりてはおそらく自明的の方法なるも、世人一般に対しては必ずしも然《しか》らず。学者と素人《しろうと》との意思の疎通せざる第一の素因は既にここに胚胎《はいたい》す。学者は科学を成立さする必要上、自然界に或る秩序方則の存在を予想す。従ってある現象を定むる因子中より第一にいわゆる偶発的突発的なるものを分離して考うれども、世人はこの区別に慣れず。一例を挙ぐれば、学者は掌中の球を机上に落す時これが垂直に落下すべしと予言す。しかるに偶然窓より強き風が吹き込みて球が横に外れたりとせよ。俗人の眼より見ればこの予言は外れたりと云う外なかるべし。しかし学者は初め不言裡《ふげんり》に「かくのごとき風なき時は」という前提をなしいたるなり。この前提が実用上無謀ならざる事は数回同じ実験を繰返す時は自《おの》ずから
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