であるが、現在の場合は「見える」からかえって困るのである。盲者の幸福がここにもある。
 とにかくこういうふうに考えれば、完全週期的な縞《しま》と不規則な縞とをひとまとめに論ずる事がそれほど乱暴でないということだけは首肯されるであろう。
 以上のほかにも天然の縞模様の例はたくさんあるであろう。放電についても放電管内の陽極の縞や、陽極の光った斑点《はんてん》の週期的紋形なども最も興味あるものであり、よく知られてもおりながら、ここでもやはり週期決定因子の研究が奇妙にも等閑に付せられているのである。
 また、粘土などを水に混じた微粒のサスペンションが容器の中で水平な縞状《しまじょう》の層を作る不思議な現象がある。普通の理論からすれば、ダルトン方則で、単に普通の指数曲線的垂直分布を示すはずのが、事実はこれに反して画然たる数個の段階に分かれるのである。仮定の抜けている理論の無価値なことを示す適例である。この場合の機巧もまだ全く闇《やみ》の中にある。ことによると、これは electrocapillary phenomena を考えに入れて始めて明らかにさるべき現象かと想像される。でなければコロイドに
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