か》の結果であることは疑いもないことであろう。
対流渦による波状雲のことは今さら述べるまでもないが、これに類似の縞は、近ごろ「墨流し」の実験をしているときに、最初表面に浮かんだ墨汁《ぼくじゅう》の層が、時がたつに従って下層の水中に沈む場合にもかなりきれいに発達するのを見ることができた。
もう一つ対流渦による週期的現象で珍しいのは「構造土」と名づけられるもので、たとえば乗鞍岳《のりくらだけ》頂上の鶴《つる》が池《いけ》、亀《かめ》が池《いけ》のほとりにできる、土砂と岩礫《がんれき》による亀甲模様《きっこうもよう》や縞模様である(1)[#「(1)」は注釈番号]。これは従来からも対流渦によるものとはされていたが、実際の生成機巧についてはいろいろ想像説があるに過ぎなかった。近ごろ理学士|藤野米吉《ふじのよねきち》君が、液の代わりに製菓用のさらし餡《あん》を水で練ったものの層に熱対流を起こさせる実験を進めた結果、よほどまで、上記自然現象の機巧の説明に関する具体的な資料を得たようである。またこれによって乳房状積雲《ちぶさじょうせきうん》とはなはだしく似た形態も模倣することができた。
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(1) これについてはかつて藤原《ふじわら》博士が地理学評論誌上で論ぜられた事がある。
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以上のものとは少し違った部類のものであるが、氷柱や鐘乳石《しょうにゅうせき》が簡単な円錐形《えんすいけい》または紡錘形となる代わりに、どうかすると、表面に週期的の皺《しわ》を生じ、その縦断面の輪郭が波形となることがある。この原因についてもあまりよく知る人がないようである。この場合にもやはり表面を流下する液体の運動にある週期性があって、それがまた同時に氷結と融解、あるいは析出と沈着との週期性を支配するものである、とまでは想像しても悪くないであろう。しかしこの場合にも熱的対流が関係するか、それとも、単に流水層の渦層《かそう》の器械的不安定によるものであるかは、今後の詳細な実験的研究によってのみ決定さるべきであろう。
次に思い及ぶものは、だれもが昔からよく問題にする、水の波や流れやまたは風による砂泥《さでい》の波形である。これは、地面に近く、水平流速の垂直分布に急な変化があるために存する渦動層が、不安定のために個々の渦柱に分裂する結果であろう
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