決して悪意に解釈してはならないと思った。この「おもしろいな」が数千年の間にわれらの祖先が受けて来た試練の総勘定であるかもしれない。そのおかげで帝都の復興が立派にできて、そうして七年後の今日における円タクの洪水《こうずい》、ジャズ、レビューのあらしが起こったのかもしれない。
 三島の町の復旧工事の早いのにも驚いた。この様子では半月もたった後に来て見たらもう災害の痕跡《こんせき》はきれいに消えているのではないかという気もした。もっと南のほうの損害のひどかった町村ではおそらくそう急には回復がむつかしいであろうが。
 三島神社の近くでだいぶゆすぶられたらしい小さなシナ料理店から強大な蓄音機演奏の音波の流れ出すのが聞こえた。レコードは浅草《あさくさ》の盛り場の光景を描いた「音画」らしい、コルネット、クラリネットのジンタ音楽に交じって花屋敷《はなやしき》を案内する声が陽気にきこえていた。警備の巡査、兵士、それから新聞社、保険会社、宗教団体等の慰問隊の自動車、それから、なんの目的とも知れず流れ込むいろいろの人の行きかいを、美しい小春日が照らし出して何かお祭りでもあるのかという気もするのであった。今度
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