こはま》、沼津《ぬまづ》、静岡《しずおか》、浜松《はままつ》、名古屋《なごや》、大阪《おおさか》、神戸《こうべ》、岡山《おかやま》、広島《ひろしま》から福岡《ふくおか》へんまで一度に襲われたら、その時はいったいわが日本の国はどういうことになるであろう。そういうことがないとは何人も保証できない。宝永安政の昔ならば各地の被害は各地それぞれの被害であったが次の場合にはそうは行かないことは明らかである。昔の日本は珊瑚《さんご》かポリポくらげのような群生体で、半分死んでも半分は生きていられた。今の日本は有機的の個体である。三分の一死んでも全体が死ぬであろう。
この恐ろしい強敵に備える軍備はどれだけあるか。政府がこれに対してどれだけの予算を組んでいるかと人に聞いてみてもよくわからない。ただきわめて少数な学者たちが熱心に地震の現象とその生因ならびにこれによる災害防止の研究に従事している。そうして実に僅少《きんしょう》な研究費を与えられて、それで驚くべき能率を上げているようである。おそらくは戦闘艦の巨砲の一発の価、陸軍兵員の一日分のたくあんの代金にも足りないくらいの金を使って懸命に研究し、そうして世
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