――と言っていると、あの蚊がみんなおりて寄ってくるのね」という。
 自分の子供の時分、郷里ではそういう場合に「おらのおととのかむ――ん」という呪文《じゅもん》を唱えて頭上に揺曳《ようえい》する蚊柱《かばしら》を呼びおろしたものである。「おらのおとと」はなんのことかわからないが、この「む――ん」という声がたぶん蚊の羽根にでも共鳴して、それが、蚊にとってはすておき難い挑戦あるいは誘惑としての刺激を与えるせいであろうが、それにしても、その音源のどの方面にあるかということを一瞬間に識別するのはどういう官能に因るものか、考えてみると驚嘆すべき能力である。自分などは、往来でけたたましい自動車の警笛を聞いても存外それが右だか左だかということさえわからないことがあるのに、あの小さな蚊は即座に音源の所在を精確に探知し、そうして即座に方向舵《ほうこうだ》をあやつってねらいたがわずまっしぐらにそのほうへ飛来するのである。
 敵の飛行機の音を聞きつけてその方向を測知するという目的のために、文明国の陸軍では、途方もなく大きな、千手観音《せんじゅかんのん》の手のようなまたゴーゴンの頭のようなラッパをもった聴音器を
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