のあるのも鼠のいたずらじゃないかしらんなど独語を云いながら我も手伝うておおかた三宝の清めも済む。取散らした包紙の黴臭《かびくさ》いのは奥の間の縁へほうり出して一ぺん掃除をする。置所から色々の供物《くもつ》を入れた叺《かます》を持ってくる。父上はこれに一々|水引《みずひき》をかけ綺麗にはしを揃えて、さて一々青い紙と白い紙とをしいた三宝へのせる。あたりは赤と白との水引の屑が茄子《なす》の茎|人蔘《にんじん》の葉の中にちらばっている。奥の間から祭壇を持って来て床の中央へ三壇にすえ、神棚から御厨子《みずし》を下ろし塵を清めて一番高い処へ安置し、御扉をあけて前へ神鏡を立てる。左右にはゆうを掛けた榊台《さかきだい》一対。次の壇へ御洗米と塩とを純白な皿へ盛ったのが御焼物の鯛をはさんで正しく並べられる。一番大きな下の壇へは色々な供物の三宝が並べられる。先ず裏の畑の茄子|冬瓜《とうが》小豆《あずき》人参里芋を始め、井戸脇の葡萄塀の上の棗《なつめ》、隣から貰うた梨。それから朝市の大きな西瓜《すいか》、こいつはごろごろして台へ載りにくかったのをようやくのせると、神様へ尻を向けているのは不都合じゃと云い出して
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