わせ真空を作る事も発明された。また炭は溶液の中にある有機性の色素を吸収する性質がある、殊に獣炭あるいは骨炭がこれに適しているので砂糖の色を抜く事などに使われる。コークスは石炭を蒸焼にした炭だ、火力が強いが燃えつきにくい。近来電気の応用が盛んになるにつれて色々の事に炭を使う、白熱電灯の細い線も炭、アーク灯の中の光る棒も炭である、電話機の受話口の中の最も要用なものは炭でこしらえた丸薬のようなものである。

      白炭

 小枝に石灰を塗って焼いた炭である。黒い炭の中に交ぜて炭取を飾り炉の中を飾る。焼けると真白に光って美しい。瓦斯の焔を石灰に吹きつけて光らせるのはドラモンド灯であるが、白炭の強い光を喜んだ昔の人は偶然に一種のドラモンド灯を知っていた訳である。

      埋火《うずみび》

 炭火を灰で埋めれば酸素の供給が乏しくなるから燃えにくくなって永く保っている。しかし終《つい》には燃えてしまうのは空気が少しずつ中を流通している証拠である。[#地から1字上げ](明治四十一年十一月十二日『東京朝日新聞』)



底本:「寺田寅彦全集 第十二巻」岩波書店
   1997(平成9)年11月21日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
   1985(昭和60)年
初出:「東京朝日新聞」
   1908(明治41)年9月12日〜11月12日
入力:Nana ohbe
校正:青野 弘美
2006年10月16日作成
2009年9月15日修正
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