沓掛より
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)浅間火山《あさまかざん》のすそ野
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)兄弟|従兄弟《いとこ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「月+昔」、第3水準1−90−47]
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一 草をのぞく
浅間火山《あさまかざん》のすそ野にある高原の一隅《いちぐう》に、はなはだ謙遜《けんそん》なHという温泉場がある。ふとした機縁からそこでこの夏のうちの二週間を過ごした。
避暑という、だれもする年中行事をかつてしたことのなかった自分には、この二週日の間に接した高原の夏の自然界は実に珍しいものばかりであった。その中でもこの地方のやや高山がかった植物界は、南国の海べに近く生《お》い立った自分にはみんな目新しいもののように思われるのであった。子供の時分に少しばかり植物の採集のまね事をして、※[#「月+昔」、第3水準1−90−47]葉《さくよう》のようなものを数十葉こしらえてみたりしたこ
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