五月の唯物観
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)林檎《りんご》やリラの花が咲き乱れて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)意気|銷沈《しょうちん》した
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)H0[#「0」は下付き小文字] + A
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西洋では五月に林檎《りんご》やリラの花が咲き乱れて一年中でいちばん美しい自然の姿が見られる地方が多いようである。しかし日本も東京辺では四月末から五月初めへかけて色々な花が一と通り咲いてしまって次の季節の花のシーズンに移るまでの間にちょっとした中休みの期間があるような気がする。少なくも自分の家の植物界ではそういうことになっているようである。
四月も末近く、紫木蓮《しもくれん》の花弁の居住いが何となくだらしがなくなると同時にはじめ目立たなかった青葉の方が次第に威勢がよくなって来るとその隣の赤椿の朝々の落花の数が多くなり、蘇枋《すおう》の花房の枝の先に若葉がちょぼちょぼと散点して見え出す。すると霧島つつじが二、三日の間に爆発的に咲き揃う。少しおくれて、それまでは藤棚から干から
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