言語と道具
寺田寅彦
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)これも六《むつ》かしい問題
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十二年五月『理学界』)
−−
人間というものが始めてこの世界に現出したのはいつ頃であったか分らないが、進化論に従えば、ともかくも猿のような動物からだんだんに変化して来たものであるらしい。しかしその進化の如何なる段階以後を人間と名づけてよいか、これも六《むつ》かしい問題であろう。ある人は言語の有無をもって人間と動物との区別の標識としたら宜《よ》いだろうと云い、またある人は道具あるいは器具の使用の有無を準拠とするのが適当だろうという。私にはどちらが宜いか分らない。しかしこの言語と道具という二つのものを、人間の始原と結び付けると同様に、これを科学というものあるいは一般に「学」と名づけるものの始原と結び付けて考えてみるのも一種の興味があると思う。
言語といえども、ある時代に急に一時に出来上がったものとは思われない。おそらく初めはただ単純な叫び声あるいはそれの連続であったものが、だんだんに複
次へ
全6ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング