空想日録
寺田寅彦
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)白熊《しろくま》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)防寒|長靴《ながぐつ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和八年三月、改造)
−−
一 白熊の死
探険船シビリアコフ号の北氷洋航海中に撮影されたエピソード映画の中に、一頭の白熊《しろくま》を射殺し、その子を生け捕る光景が記録されている。
果てもない氷海を張りつめた流氷のモザイクの一片に乗っかって親子連れの白熊が不思議そうにこっちをながめている。おそらく生まれて始めて汽船というものに出会って、そうしてその上にうごめく人影を奇妙な鳥類だとでも思ってまじまじとながめているのであろう。甲板の手すりにもたれて銃口をそろえた船員の群れがいる。「まだ打っちゃいけない。」映画監督のシュネイデロフが叫ぶ。銃砲より先にカメラの射撃が始まるのである。白熊は、自分の毛皮から放射する光線が遠方のカメラのレンズの中に集約されて感光フィルムの上に隠像《レーテントイメージ》の記録を作っていることな
次へ
全23ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング