疑問と空想
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)信州《しんしゅう》沓掛《くつかけ》駅

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(例)[#地から3字上げ](昭和九年十月、科学知識)
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     一 ほととぎすの鳴き声

 信州《しんしゅう》沓掛《くつかけ》駅近くの星野温泉《ほしのおんせん》に七月中旬から下旬へかけて滞在していた間に毎日うるさいほどほととぎすの声を聞いた。ほぼ同じ時刻にほぼ同じ方面からほぼ同じ方向に向けて飛びながら鳴くことがしばしばあるような気がした。
 その鳴き声は自分の経験した場合ではいわゆる「テッペンカケタカ」を三度くらい繰り返すが通例であった。多くの場合に、飛び出してからまもなく繰り返し鳴いてそれきりあとは鳴かないらしく見える。時には三声のうちの終わりの一つまた二つを「テッペンカケタ」で止めて最後の「カ」を略することがあり、それからまた単に「カケタカ、カケタカ」と二度だけ繰り返すこともある。
 夜鳴く場合と、昼間深い霧の中に飛びながら鳴く場合とは、しばしば経験したが、昼間快晴の場合はあまり多くは経験しなかっ
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