って学位を請求する人達であろう。独創的なものには玉もあるが疵《きず》も多い。疵を怖がる眼には疵ばかり見えて玉は見えにくい。審査者に十分の見識がないと、そういうものの価値の見当はつけにくいものである。そういうものは消極主義の審査官の安全第一という立場から云えば保留した方が無事である。西洋の学者がそれについて何とかいうのを待ってその鼻息を窺《うかが》ってから決定した方がいい、ということになる恐れがある。ところが西洋では東洋人の独創などはよほどなものでないと見遁《みのが》されやすい。不幸なのは独創性をもって生まれた研究者である。
 日本の学術が進歩したとはいうもののまだまだ十分とは云われない。試みに世界における物理化学に関する研究論文の文献を集録した『フィジカリッシェ・ベリヒテ』及び『ケミカル・ニュース』の最近のものについて日本人の論文の数を検して見ると約三プロセントくらいのものである。少数な世界の強国の中の日本としてはあまりに少ない比率である。軍艦の比率を争うのも緊要であろうが、科学戦に対する国防がこの状況では心細くはないか。
 繰返して云うが、学位などは惜しまず授与すればそれだけでもいく
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