いようなからだになったので、自然に夏の海とは縁が遠くなってしまった。
 四歳のときにひどく海を嫌ったのがその讖《しるし》をなしたとでも云うのかもしれない。
 この頃では夏が来るとしきりに信州の高原が恋しくなる。郭公《かっこう》や時鳥《ほととぎす》が自分を呼んでいるような気がする。今年も植物図鑑を携えて野の草に親しみたいと思っている。
[#地から1字上げ](昭和十年八月『文芸春秋』)



底本:「寺田寅彦全集 第一巻」岩波書店
   1996(平成8)年12月5日発行
入力:Nana ohbe
校正:川向直樹
2004年6月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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