ナはない。あの手すりの上をすべって行くゴムの帯もなんだか蛇《へび》のようで気味が悪いと言った人もある。自分はある日ここで妙な連想を起こした事がある。自分の子供を小学校へ入れてやると、いつのまにか文字を覚える算術を覚える、六年ぐらいはまたたくまにたって、子供はいつのまにかひとかど小さい学者になっている、実にありがたいものだと思わないではいられない。ちょうどエスカレーターの最下段に押して入れてやれば、あとはひとりで、少なくも二階までは持って行ってくれるのと同じようなものである。このごろは中学や高等学校の入学がだいぶ困難になって来たが、それでも一度入学さえすればとにかく無事にせり上がって行くのが通例である。これから見ると、昔の人は、不完全な寺子屋の階段を手を引いてもらってやっと上がると、それから先は自分で階段を刻んだり、蔓《つる》にすがって絶壁をよじるような思いをしなければならなかった。それで大概の人は途中で思い切ってしまっただろうが、登りつめた人の腕や足は鉄のようにきたえられたに相違ない。
三越の商品のおもなるものはなんと言っても呉服物である。こういう物に対する好尚《こうしょう》と知識の
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