丸善と三越
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)丸善《まるぜん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|三越《みつこし》へ行く

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](大正九年六月、中央公論)

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)「クルイクシャンク/\」と言って
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 子供の時分から「丸善《まるぜん》」という名前は一種特別な余韻をもって自分の耳に響いたものである。田舎《いなか》の小都会の小さな書店には気のきいた洋書などはもとよりなかった、何か少し特別な書物でもほしいと言うと番頭はさっそく丸善へ注文してやりますと言った。中学時代の自分の頭には実際丸善というものに対する一種の憧憬《どうけい》のようなものが潜んでいたのである。注文してから書物が到着するまでの数日間は何事よりも重大な期待となんとも知らぬ一種の不安の戦いであった。そしてそれが到着した時に感じたあの鋭い歓喜の情はもはや二度と味わう事のできない少年時代の思い出である。
 東京へ出るようになっ
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