《うるさ》さがわりに少なくて軽快な俳諧といったようなものが塩梅されているようである。例えばドライヴの途上に出て来るハイカラな杣《そま》や杭打《くいう》ちの夫婦のスケッチなどがそれである。「野羊《やぎ》の居る風景」などもそれである。ただ残念に思うのは、外国の多くの実例と比較したときに感ぜられる音楽の容量の乏しさと、高く力強く盛り上がって来るような加速的構成の不足である。もう一層の深い研究が望ましいと思われる。
 主役のすみれ娘はオリジナルな愛嬌と頭脳の持主らしく随所に一種の俳諧を発揮しているようである。若返りの博士はからだでする表情をもう少し腹の中へしまい込んだ方がこの映画の俳諧的雰囲気に相応わしいのでないかと思われた。これに比べると金満家と彫刻家とは簡にして要を得ているようである。カメラと焼付けも一体になかなか鮮明で美しいと思われたが、残念ながら録音の方にはまだまだ望むべき多くのものが残されているようである。
[#地から1字上げ](昭和十年七月『映画と演芸』)



底本:「寺田寅彦全集 第八巻」岩波書店
   1997(平成9)年7月7日発行
入力:Nana ohbe
校正:浅原庸子
2004年12月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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