#ここで表組終わり]
 このほかにまだコマ・カンプ型、クジウ型およびイワウ型があるがこれは今回は略し、他日の機会に譲ることとする。
 この表中にヨーロッパやアメリカなどの火山が出て来るのを見て笑う人もあろうと思うが、しかし南洋語と欧州語との間の親族関係がかなり明らかにされている今日、日本だけが特別な箱入りの国土と考えるのはあまりにおかしい考えである。これについてはどうか私が先年「思想」に出した「比較言語学における統計的研究法の可能性について」を参照されたい。
 また言語学者のほうからは、私の以上の扱い方が音韻転化の方則などを無視しているではないかという非難を受けるかと思う。しかしグリムの方則のような簡単|明瞭《めいりょう》なものは大陸で民族の大集団が移動し接触する時には行なわれるとしても、日本のような特殊な地理的関係にある土地で、小さな集団が、いろいろの方面から、幾度となく入り込んだかもしれない所では、この方則はあるにはあっても複雑なものであろうと予期するほうが合理的である。これを分析的に見つけて行くのが、これからの長い将来の仕事でなければならない。それで私の現在の仕事は、そういう方面への第一歩として、一つの作業仮説のようなものを持ち出したに過ぎないのである。
 以上の調べの結果で、たとえば Aso, Usu, Esan, Uson, Asur, Osore, Ossar 等が意味の上で関係があると仮定すれば、これはいったい何を意味するかが問題となる。たとえば南洋エファテの Aso(燃える)Asua(煙る)サモアの Asu(煙)や、マレーの Asap(煙)(マレイでは火山は Gunong berasap すなわち煙山とも Gunong berapi 火山ともいう。Asap は Asama にも通《かよ》う)。あるいはヘブリウの ‘Esh(火)‘as´en(煙る)‘as´an(くすぶる)などが示唆され、これと関係あるアラビアの ‘atana(煙る)から西のほうへたぐって行ってイタリアの Etna 火山を思わせ、さらに翻ってわが国の Iduna を思わせる。しからばこれはセミティク系の言葉かと思っているとまたたとえばスキートの説によればギリシアの eusein(燃える、焦げる)はインドゲルマンの理論上の語根 eus とつながり、アングロサクソンの Yslan(熱灰)の源であり、サンスクリットの語根 Ush(燃える)ともつながるとある。アイスランドの火山 Askja は同国古語の Aska(灰)であるとすれば、これは英語の ashes(灰)と親類だそうである。そこで今度は試みに「灰」を意味する語を物色してみると、サンスクリットに Bhasman, Bhuti があるが、この前者は Asama 後者は Huti(Fuzi) を思わせる。頭の子音 Bh と B をドロップさせるのがおもしろい。一方でわが国に Buson という消火山のあるのはなおおもしろい。白山《はくさん》の一峰を Bessan というのもこれに類する。これもBを除去すればアソ型となるのである。またこれにつづいて考えることは Rausu, Rausi, Rasyowa のアイヌ系のものから始めのRを除き Lesson, Lassen からLを取るとアソ型に接近する。これも興味がある。マレイ語から語頭のLを除くと日本語に似るものの多い事はすでに先覚者も注意した事である。その他にも頭の子音を除いてアソ型になるもの Kasa, Daisen, Tyausu, Nasu があることに注意したい。しかし私はこのようなわずかの材料から語原説などを提出する意は毛頭ない。ただ、一つの興味ある事実を注意するだけである。
 コマ型、タラ型、フジ・クジウ型、ユワウ型についても同様なことが言われるのであるが、これらは後日さらに詳しく考えてみたいと思う。今回は紙数の制限もあるので以上の予備的概論にとどめ、ただ多少の見込みのありそうな一つの道を暗示するだけの意味でしるしたに過ぎない。従って意を尽くさない点のはなはだ多いのを遺憾とする。ともかくもかかる研究の対象としては火山の名が最も適当なものの一つであることは明らかであろう。たとえば川の名ではこういう方法は到底むつかしいと考えられる。最も顕著な特徴をもって原始民の心に最も強く訴えたであろうと思わるる地上の目標として火山にまさるものはないのである。しかしそういう目標に名前がつけられ、その名前がいよいよ固定してしまい、生き残りうるためには特別な条件が具足することが必要であると思われる。単に理屈がうまいとか、口調がいいとかいうだけでは決して長い時の試練に堪えないかと思われる。従来の地名の研究には私の知る限りこの必要条件の考察が少しも加わっていないではない
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