の句と以後の句との間に存する大きな距離が特別に目立つ、それだけでも覗《うかが》ってみる事は先生の読者にとってかなり重要な事であろうかと思われる。
 色々の理由から私は先生の愛読者が必ず少なくもこの俳句集を十分に味わってみる事を望むものである。先生の俳句を味わう事なしに先生の作物の包有する世界の諸相を眺める事は不可能なように思われる。また先生の作品を分析的に研究しようと企てる人があらばその人はやはり充分綿密に先生の俳句を研究してかかる事が必要であろうと思う。
[#地から1字上げ](昭和三年五月『漱石全集』第十三巻、月報第三号)



底本:「寺田寅彦全集 第十二巻」岩波書店
   1997(平成9)年11月21日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
   1985(昭和60)年
初出:「漱石全集 第十三巻 月報第三号」
   1928(昭和3)年5月10日
※初出時の署名は「吉村冬彦」です。
入力:Nana ohbe
校正:青野 弘美
2006年10月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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