。耽奇漫録《たんきまんろく》によると文政七年の秋降ったものは、長さの長いのは一尺七寸もあったとある。この前後|伊豆《いず》大島《おおしま》火山が活動していた事が記録されているが、この時ちょうど江戸近くを通った台風のためにぐあいよく大島の空から江戸の空へ運ばれて来て落下したものだという事がわかる。従ってそれから判断してその日の低気圧の進路のおおよその見当をつける事が可能になるのである。
気象に関係のありそうなのでは「たぬきの腹鼓」がある。この現象は現代の東京にもまだあるかもしれないがたぶんは他の二十世紀文化の物音に圧倒されているためにだれも注意しなくなったのであろうと思う。ともかくも気温や風の特異な垂直分布による音響の異常《いじょう》伝播《でんぱ》と関係のある怪異であろうと想像される。今では遠い停車場の機関車の出し入れの音が時として非常に間近く聞こえるといったような現象と姿を変えて注意されるようになった。たぬきもだいぶモダーン化したのである。このような現象でも精細な記録を作って研究すれば気象学上に有益な貢献をする事も可能であろう。
「天狗《てんぐ》」や「河童《かっぱ》」の類となると物理
前へ
次へ
全23ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング