家という格で外様大名《とざまだいみょう》のような待遇を受けるのでなくて、その社の仕事の全体に参与しかつ責任を負うものでなくてはならない。これらの記者たちはそれぞれ専門の方面で一般のために有益であるべきあらゆる重要事項の正確な報道紹介や、災害の防止に関する適切な助言や注意を提供し、また公共事業に対する問題を提出して最善の方案を公衆に求める事を努めなければならない。もちろんこれらの人々は一方ではそれぞれの本来の職務に従事しているが、その職務時間の若干をさいて公衆のためにこれらの記事を草するという事は少しも不都合とは思われないのみならず、むしろそういう事は職務に付帯した義務の一部分と考えられない事はない。またそういうものを記述する事によって各自の職務の遂行上有益な啓示《ヒント》を得る場合もかなり多いだろうと思われる。
 こういう大新聞社の経営を少数な資本家の手にゆだねるのは穏当ではあるまい、これはむしろ全国民自身か、少なくもその大部分の共同経営によるものとしなければなるまい。そうするためには経営維持に必要な費用は租税などと類似の方法で一般から集め、記者や編集員らも適当に組織された選挙制度によって定めるべきであろう。しかしこういう選挙制度にいつも付きまとう弊害を防止するためにはこれらの記者の地位を決して物質的に有利なものにしてはならない。記者たる事によって一身の利益を計るに便宜を得るような可能性は始めから除去するような制度組織が必要である。ほんとうに社会の利益のみしか考えない人ばかりならばその必要はないが、この用心はだれも知るとおり今のところどうしても必要である。
 もしこのような新聞社ができたとすれば、それは従来の意味の新聞社とはだいぶちがったものになる。むしろ国民社会一般の幸福安寧に資すべき調査研究報告機関のようなものになってしまう。こういうものは全国にただ一つあって、各地には適当に支局を分配して、中央を通じて相連絡すればよい。
 政治経済教育宗教学芸産業軍事その他ありとあらゆる方面にわたる現実の正確な知識を与え、一般の輿望《よぼう》に基づいて各当局の手の回らぬところを研究し補助して国家社会のあらゆる機関の円滑な融合を計るがために、こういう特別な一大組織を設けるという事は、むしろ一国の政府自身としても当然考えなければならない事のように思われる。単に小官衙《しょうかんが》
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