土が顔を出している処には近代都市は存在しないということになるらしい。
 荒川放水路の水量を調節する近代科学的|閘門《こうもん》の上を通って土手を数町川下へさがると右にクラブハウスがあり左にリンクが展開している。
 クラブの建物はいつか覗《のぞ》いてみた朝霞《あさか》村のなどに比べるとかなり謙遜な木造平家で、どこかの田舎の学校の運動場にでもありそうなインテリ気分のものである。休憩室の土間の壁面にメンバーの名札がずらりと並んでいる。ハンディキャップの数で等級別に並べてあるそうだが、やはり上手な人の数が少なくて、上手でない人の数が多いから不思議である。黒板に競技の得点表のようなものが書いてある。一等から十等まで賞が出ている。これなら楽しみが多いことであろう。賞品は次の日曜日に渡しますとある。人間いくら年をとっても時には子供時代の喜びを復活させる希望を捨てなくてもいいのである。
 M夫人が到着したのでそろそろ出掛ける。
 一体の地面よりは一段高い芝生の上に小さな猪口《ちょこ》の底を抜いて俯伏《うつぶ》せにしたような円錐形の台を置いて、その上にあの白い綺麗なボールを載せておいて、それをあのクラブ
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