たようである。これが成効であるとしても、まだ彼の目前には大きな問題が残されている。それはいわゆる「素量《クアンタム》」の問題である。この問題にも彼は久しい前から手を付けている。今後彼がこれをどう取り扱うかが何よりの見ものであろう。エジントンの云うところを聞くと、一般相対原理はほとんどすべてのものから絶対性を剥奪した。すべては観測者の尺度による。ただ一つ残されたものが「作用《アクション》」と称するものである。これだけが絶対不変な「純粋の数」である。素量説なるものは取りも直さずこの作用に一定の単位があるという宣言に過ぎない。この「純数」がおそらくある出来事の「確率《プロバビリティ》」と結び付けられるものであろうと云っている。これに対するアインシュタインの考えは不幸にしていまだ知る機会を得ない。ただ彼が昨年の五月ライデンの大学で述べた講演の終りの方に、「素量説として纏《まと》められた事実があるいは『力の場《フェルド》』の理論に越え難い限定を与える事になるかもしれない」と云っている。この謎のような言葉の解釈を彼自身の口から聞く事の出来る日が来れば、それは物理学の歴史でおそらく最も記念すべき日の
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