ジークの類を好むという事や、ショパン、シューマンその他|浪漫派《ろうまんは》の作者や、またワグナーその他の楽劇にあまり同情しない事なども、何となく彼の面目を想像させる。
絵画には全く無関心だそうである。四元の世界を眺めている彼には二元の芸術はあるいはあまりに児戯に近いかもしれない。万象を時と空間の要素に切りつめた彼には色彩の美しさなどはあまりに空虚な幻に過ぎないかもしれない。
三元的な彫刻には多少の同情がある。特に建築の美には歎美を惜しまないそうである。
そう云えば音楽はあらゆる芸術の中で唯一の四元的のものとも云われない事はない。この芸術には一種の「運動」が本質的なものである。ただその時とともに運動する「もの[#「もの」に傍点]」と空間とが物質的でないだけである。
文学にも無関心ではないそうである。ただ忙しい彼には沢山色々のものを読む暇がないのであろう。シェークスピアを尊敬してゲーテをそれほどに思わないらしい。ドストエフスキー、セルバンテス、ホーマー、ストリンドベルヒ、ゴットフリード・ケラー*、こんな名前が好きな方の側に、ゾラやイブセンなどが好かない方の側に挙げられている。この
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