たかはだれにもわからない。地震か、ペストか、それともソドム、ゴモラのような神罰か、とにかく、そんなに遠くもない昔に栄えた都会が累々たる廃墟《はいきょ》となっていて、そうして、そういうものの存在することをだれも知らないかあるいは忘れ果てていたのである。
ロプ・ノールの話や、このペルーの廃墟の話などを読んでいると、やっぱりまだこの世界が広いもののように思われて来るのである。
米国地理学会で出版されたペルーの空中写真帳を見るとあの広い国が至るところただ赤裸の岩山ばかりでできているのに驚く。地図を見ているだけではこんな事実は夢にも想像されない。地理書をいくら読んでも少なくもこれら写真の与える実感は味わわれまい。
一日も早く「世界空中写真帳」といったようなものが完成されるといいと思う。それが完成するとわれわれの世界観は一変し、それはまたわれわれの人生観社会観にもかなりな影響を及ぼすであろう。そうして在来の哲学などでは間に合わない新しい天地が開けるであろうと夢想される。
[#地から3字上げ](昭和七年十二月、唯物論研究)
底本:「寺田寅彦随筆集 第三巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
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