人格化して神と祭り上げてしまった。しかしそれは譬喩《ひゆ》である。地はただの無生の物質の集合に過ぎない。
動植物は地から食物をとって生長する。従って彼らの中には共通な元子が多分に包まれている。しかし共通な元子からできても、その元子の結合のしかたや順序によって異種の物ができる。あたかも種々に異なる語に共通なアルファベットがあるようなものである。
しかし元子の結合のしかたにある定則があって、勝手放題なものはできない。そのために生物はその祖先の定型を保存し、できそこないの妖怪《ようかい》はできない。すなわちここで初めて遺伝の問題に触れている。
そういう事がどうしてできるか。それは動植物が摂取する食物の中で、各自に適当なものは残存し、不適当なものは排出されるからである。すなわちここにも「選択の原理」の存在を持ち出している。これと同じ事は無機界にも行なわれている。すなわち元子の結合にはある定まった方則が支配している。そのおかげで個々の一定の物質が区別されると考えるのである。これも化学におけるあらゆる方則全体の存在を必要とする根本原理を述べたものと見られる。
次にはすでに前にも述べたごとく
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