しかし現在においても普通の大多数の具体的の問題は依然として昔のままの空間および原子で間に合っているのである。
さて、次に、物質は原子と空虚の混合であるという考えから物の有孔性や、比重の差違の生じる事を述べている。音響もまた原子の発散によるものと考えるから、音が壁を通過するのも壁の原子間に空隙《くうげき》があるからだと言って説明している。これは今の学生の答案として見れば誤謬《ごびゅう》である。しかし実際壁の元子間に空隙《くうげき》が少しもなく、従って完全剛体であったら、音のエネルギーは通過し得ないであろう。そういう意味ではこれもやはりほんとうである。ルクレチウスはその次に水中における魚の運動や、また物体の衝突反発の例をあげて空虚の説明に用いているが、この解説は遺憾ながら今の言葉に翻訳し難いように見える。
次には、空間と物質とが「それ自身に存在する」ただ二つのものであって、それ以外に第三のものはないという事を宣言している。その意味はすでに前述のごとく器械的力学的自然観の基礎として現代に保存されたものと同義である。これは物の作用や性質やまでも物体視せんとするストア派の学者に対する手ごわい
前へ
次へ
全88ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング