郷里の家にはこれらの標本がよほど残っているくらいで、少しはこんな事が運動になったのかもしれぬ。その代わり、滋養物はできうるだけ多く取った。それがため、からだの弱かったわりに、そう病気にもかからなかったのである。
前いうような家庭であったから、別に心配もしなかった、いたずらにつまらぬことに頭を悩まして、からだを疲労させるということがなかったばかりでなく、学校の教科目その他の物についても困難、苦痛もなく、まず学生時代はのんきに暮らしたほうである。といって、友だちとやたらに交際しておもしろく遊んだというわけではなく、こちらから求めてするような事はさらにしなかった。
田舎の事であるから、家に帰ると遊びの友と言ってもわずか二三にとどまっていたくらいのもの。だが幸いそのころ、近所にあった親戚でちょうど同年輩の者が来ていたので、よくそこへ行ってはそれと遊んだように覚えている。
いったい、自分は交際ということが下手のほうで、今も自ら求めて交際するというような事はなく、ただ心を許したわずかの友と深く交わっているに過ぎぬ。
[#地付き](明治四十一年十二月)
底本:「日本の名随筆 別巻85 少
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