ゥ棄に陥つた人々がゐるのである。而して多くの人々の斯くの如き結果に到達するはかの恋愛の運命が時に与ふる斥けがたき悲劇のためではなく旧時代が新時代に対し人生に於ける恋愛の価値は極めて小なるものであるといふ見解を強ひた為めである。恋愛が『神聖なる生産』の必然的基礎として宗教的尊敬を以て取扱はるる様になれば、現在社会の救済事業の大部分は無用となるであらう。且て人間堕落の原因と云はれた恋愛が人間の幸福の一手段と変ずる時は厭世、失望、堕落の数は遙かに減ずるであらう。現在に於て劣情の牢獄の中に禁錮せられてゐる曾つて偉大であつた力が性的生活を通じて無用の苦しみから開放せらるる時は現在社会にて浪費されてゐる種々なる勢力が人生の他の方面に活躍するのみならず恋愛が覚醒し緊張する新しき諸勢力が更らにその上に加へられるであらう。
併しながら私の恋愛といふのは人格的の偉大なる恋愛を指すのである。それは人生の無限の相を開放して人々に示すものであつてその変化を消滅せしむるかのふざけたる小さき恋の如きを云ふのではない。その恋愛は先づ第一に自己の存在と他の人々の存在が真に偉《おお》きく計りがたいものであるといふ感じを
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