、あらゆる偏見と伝説と習俗の覊絆《きはん》を切断し、自己心内の新生を創始することが遙かに重要である。人生のあらゆる方面にわたる権利の平等を要求することは正しく公平なことである。しかしながら最も根本的の権能は畢竟愛し、愛せれることである。実際、婦人解放が完全にして真正なるものとなるの暁にはかの愛せらるゝこと――即ち恋人であり母であること――が奴隷であり、附属品であるといふことと同意義であるといふ様な滑稽な観念は排除されてしまはなければなるまい。或は又男性と女性とは二個の相反せる世界を実現するものであるといふが如き性的二元説の無稽なる観念も等しく取去られなければならないであらう。
 瑣々《ささ》たるものは分離し、広きものは結びつく。私等は相互に博大な心を持つ様にならなければいけない。我々の周囲に群がる有象無象のために、ものの根本を見逃してはならない。両性関係の真の意義は征服者、被征服者といふが如き関係を許さない。それは只だ一ツの偉大なることを知つてゐる――即ち自己をより豊富に、より深く、より善くするために自己を限りなく与ふるといふことである。それのみが只だ空虚を満たし、婦人解放の悲劇を無限の歓喜に変ずるであらう。



底本:「定本 伊藤野枝全集 第四巻 翻訳」學藝書林
   2000(平成12)年12月15日初版発行
※ルビを新仮名遣いとする扱いは、底本通りにしました。
入力:門田裕志
校正:Juki
2006年12月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全9ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング