なった。もう毎日のことにずいぶん考えも考えたが疲れてしまった。もう何にも考えまいと思い思いやはりそれからそれへと考えは飛んで行った。
「郵便! 藤井登志という人いますか」
「ハイ」
 出て見ると三通の封書を渡された。一通はN先生、一通は光郎、あとのはねずみ色の封筒に入った郵便局からのだ、あけて見ると電報為替だ。N先生から送ってくだすったもの、先生からこうしてお金を送って頂こうとは思わなかった。と思うと登志子はもう涙をいっぱい目に溜めていた。一昨日も先生の電報を見た時に、先生はこんなにまで気をつけてくださるのかと登志子はやはり涙溜めて志保子に先生のことを話した。
 登志子はすぐ先生の手紙を読んだ。
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「御地からの手紙を見て電報を打った。意味が通じたかどうかと思って今も案じている。金に困るのならどこからでも打電してください、少々の事は間に合わせますから。弱い心は敵である。しっかりしていらっしゃい。事情はなお恭しく聞かねばわからないがとにかく自分の真の満足を得んがために自信を貫徹することが即ち当人の生命である。生命を失ってはそれこそ人形である。信じて進むところにその人の
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