達の家へも足りない金の算段をするつもりで訪ねた。しかしとうとういい出し得ずに止めてしまった。金が出来ないといって夜になって再び家へフラリと帰りたくはない。帰って帰れないことはないが、もう一度出たものを帰る気はどうしてもない。仕方なしに三池の叔母の家まで行った。そこでもついに話し得ずに、そして家出したことが知れそうになって思案にあまってこの友達の家まで来た。手紙を出して頼んだら応じてくれる当てのある人が二三人はある。その人に相談する間も、見つけ出されて連れかえられそうな所はいやだと思って志保子をたよった。しかし一週間になるけれどもどこからも返事は来ない。たのんだ金が出来ないとしてもそのままではいられない。どうしたらいいのだろう。そう考えてくると登志子はもう今日までただイライラして、もう、どうなってもいい、なるようにしかならないのだ、いっそ堕ちられるだけどん底まで堕ちていって、この目覚めかかった自我を激しい眩惑になげ込んで生きられるだけ烈しい強い、悲痛な生き方をしてみたい。あの生命がけでその日その日を生きていく炭坑の坑夫のようなつきつめた、あの痛烈な、むき出しな、あんな生き方が自分にもできるのなら、こんなめそめそした上品ぶった狭いケチな生き方よりどのくらい気が利いているかしれない。いっそもう、親も兄妹も皆捨てた体だ、堕ちる体ならあの程度まで思いきってどん底まで堕ちてみたいというような、ピンと張った恐ろしく鳴りの高い調子な時もあるし、またもう自分の行く道は皆阻まれてしまったのだ、これから先苦しんで働いて見たところでやはり何にも大したこともできないし、自分でどうしても開かなければならないと信じてすべてのものに反抗して切開いた道の先は、まっくらでスにもない。自分を自由に扱うことのできるよろこびの快い気持に浸ったのは、このまま逃れようと決心した瞬間だけであった。今日まで一日だって明るい気持ちになったことはない。いつも忌々しいと思いながら、肉身というふしぎなきずなに締めつけられて暗い重くるしい気持ちがはなれない。自分ではいくらか上京したら光郎をたよるつもりでも、光郎の気持だってどちらを向くか分らない。考えると不安なことばかりだ。ああいやだどこか人の知らない所に行って静かな死にでものがれたい。どこへ向いて行っても行き止りは死だ。早かれ遅かれ死だもの。どうにでもなれというような気にも
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