が多かっただけ、私は家を出たその日からすべての事に何の未練も残さずにすみました。永い間私を苦しめた功利的な醜い心遣いもなくなりました。私は今、何の後悔も持たないでいられることを非常に心持よく思います。
大杉さんとの愛の生活が始まりました日から、私の前に収まっていた心持がだんだん変わってくるのが、はっきり分りました。前にいいましたような傲慢な心持で、保子さんなり、神近さんなりのことを考えていました私は、二人の方のことを少しも頭におかずに、大杉さんと対っている事に平気でした。そうして、私がその自分の気持に不審の眼を向けましたときに、またさらに違った気持を見出しました。「独占」という事は私にはもう何の魅力も持たないようになりました。吸収するだけのものを吸収し、与えるものを与えて、それでお互いの生活を豊富にすることが、すべてだと思いましたときに、私は始めて私達の関係がはっきりしました。
たとえ大杉さんに幾人の愛人が同時にあろうとも、私は私だけの物を与えて、ほしいものだけのものをとり得て、それで自分の生活が拡がってゆければ、私には満足して自分の行くべき道にいそしんでいられるのだと思います。[
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