るじゃないの」
「健坊は雪ちゃんをいい娘にすればいいさ」
 そういった途端、うしろからボソボソ尾行て来た健坊がいきなり駈けだして、安子の傍を見向きもせずに通り抜け、物凄い勢いで去って行った。兵児帯が解けていた。安子はそのうしろ姿を見送りながら、
「いやな奴」と左の肩をゆり上げた。
 ところが、次の日曜日、安子とお仙と一緒に銭湯へ行っていると、板一つへだてた男湯から水を飛ばした者がいる。
「誰さ。いたずらおよしよ」
 安子が男湯に向って呶鳴ると、
「てやがんでえ。文句があるなら男湯へ来い、あははは……。女がいくら威張ったって男湯へ入ることは出来めえ。やあい、莫迦野郎!」
 男湯から来た声は健坊だ、と判ると安子はキッとした顔になり、
「入ったらどうするッ」
「手を突いて謝ってみせらア」
「ふうん……」
「手を突いて、それから、シャボン水を飲んで見せらア」
「ようし、きっとお飲みよ」
 安子はそう言うといきなり起ち上って、男湯と女湯の境についている潜り戸をあけると、男湯の中へ裸のままはいって行った。手拭を肩に掛けて、乳房も何も隠さずすくっと立ちはだかったまま、
「さあ入ったよ。手を突いてシャ
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