は死んでしまったのだな」
と、ふと思うと、急にガタガタ足がふるえて来た。
「なんや、ふるえてるぞ」
だらしがないじゃないかと自嘲していると、豹吉は急に持前の、人をあっといわせたいといういつもの癖が頭をもたげてむずむずして来た。
「人を驚かせるが、自分は驚かないのがダンディの第一条件だ」
というおきてを守っている豹吉だった。
だから、一たび、
「何か人をあっといわせるようなことをしてみたい」
と、思うと、もう腹の虫がむずむずして来て、いても立ってもおられなかった。
「どんなことをして、人をあっといわせてやろうかナ」
川を覗きこんでいた顔をきっと上げて、豹吉は豹のような眼を輝かせて、いきなり振りむくと、ペッと唾を吐いた。
途端に、豹吉はどきんとした。
渡辺橋の上を、警官が一人の女を連れて渡って行くのを、見たのだ。
警官を見て、どきんとしたのではなかった。
警官に連れられている若い娘を見て、驚いたのだ。
手錠を掛けられて、警察へ連れられて行くのであろう、しょんぼりうなだれて、顔が半分かくれていたが、しかし、その美しく整った顔には、見覚えがあった。
忘れもしない――いや、忘れられるものか――雪子だった。
雪子――阿倍野橋の宿屋で小沢の帰りを待っていた筈の雪子が、小沢が著物を持って帰ってやったわけでもないのに、いつ、どうして宿の外へ出たのか。
そしてまた、いつ、どこで、どんな悪いことをして、警官につかまってしまったのか。……
雪子は小沢の帰りを待っていたが、到頭待ちくたびれて、しびれを切らしてしまったのだった。
むろん、小沢にはもう一度会いたかった。
が、それだけに、小沢が帰って来ることが、怖くもあった。
小沢が帰って来れば、きっと、昨夜の裸の原因をきかれるに違いない。
昨夜は頑として、答えなかったが、もう今日となってみれば、いつまでも黙っておるわけにはいかないような気がした。
だから、小沢が帰って来て、そのことをきかれるのが怖かったのだ。
それに一刻も早く宿を出たかった。
といって、しかし、著物なしでは外へ出られない。
思案に困って、ふと廊下へ出ると隣の部屋のドアがあいていて、女の著物が著物掛けに掛っているのが眼にはいった。
部屋の中をうかがうと、誰もいない、その著物の主は、べつの著物と著かえて外出しているのだろう。
ふと
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