趣味!
章三の頭に陽子が浮んでいなかったら、この貴子の計算も効果があったかも知れない。
「東京でキャバレエやろうという話あるんだけど……」
章三から金を出させようと思っているのだ。
「…………」
「何だか、銀座でいい場所らしいから、今夜行って見て来ようと思うんだけど……」
「誰と……?」
「ああ、お友達、来てるのよ。あとで会ってあげてね。ちょっと綺麗よ」
「それより、ゆうべ乗竹のとこへ来てた女、あれどこの女や」
「さア……」
「ここへは……?」
「はじめてでしょう。どうせ、どっかの玄人じゃないかしら」
「靴とりに来えへんのか」
「まだでしょう……?」
「乗竹は……? まだ居とるのンか」
「侯爵……? 帰ったわ、今……」
「ふーん」
「あなたは、これからどうなさる……?」
「大阪へ帰る」
「東京へ行くひまなんか……?」
「まア、ないな」
そう言いながら、章三は、こいつ乗竹を誘って行くつもりやなと、キラッと光る眼で貴子を見た。そして、新聞をひろげると、
「売邸、某侯爵邸、東京近郊……」
そんな広告が眼にとまった。
四
章三はゾッとするような凄い笑いをうかべて、
「
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